ユーダイモニア マネジメント


ミック・ジャガーに学ぶ、80歳まで稼ぎ続けるリーダーシップ

序章:事業主としてのローリング・ストーンズ
執筆者:小屋一雄

50年間稼ぎ続ける㈱ローリング・ストーンズ


 2013年、ローリング・ストーンズは結成50周年を迎えた。それを記念したワールド・ツアーも行われ、中心メンバーのミック・ジャガーとキース・リチャーズはともに70歳という年齢でステージを駆け回ることになる。
私のような長年のファンは、このバンドは今回もステージで大いに暴れ観客を魅了してくれることを知っている。70歳とはいえ、数年前の2005年~2007年の「ビガー・バン・ツアー」でも20代のバンドに負けないくらいのエネルギーを見せつけてくれたし、その後も映画撮影などのために演奏活動は続けているのだから、今回も全く心配ないのだ。
そもそも、プロ中のプロである彼らが中途半端なステージを演れるわけがないのだ。1ファンとして、学生時代から楽しませ続けてくれているストーンズには大いに感謝をしたいところだ。
 しかし、よく考えてみると、これは凄いことだと言う事に今更ながら気がつく。いや、凄いどころの話ではない。とんでもないことなのだ。当たり前だが、50年間という時間は、一つのバンドが音楽業界で文句なしの第一線で活躍し続けるには余りにも長い期間だ。こんなことを成し遂げたバンドは他にはない。世界に多大な影響を残したビートルズはストーンズより1年早い1962年にデビューしているが、8年後の1970年には解散している。
 私は企業向けにコンサルティングや研修を行っているが、50年以上存続し、しかも利益を上げ続けている企業というのは超大企業以外ではなかなかお目にかからない。
 日経ビジネスの調査では、1982年時点での会社の平均寿命は30年とされていた。しかし、それからグローバル化などが進みさらに競争が激しくなる中で2009年の調査ではわずか7年に縮小していた。これには会社法の改訂なども影響していると思われるが、ストーンズを一つの事業体と考えた場合、やはりこの50年という数字は驚きに値する。
 「いやいや、ストーンズは所詮5人やそこらのロックバンド。企業と比べるのはナンセンス」という声も聞こえてくる。確かにストーンズは厳密には企業ではない。しかし、先程例に上げた「ビガー・バン・ツアー」で彼らはグループとして5億5825万ドル(558億円)の売上を叩きだしているのだ。
 これは2012年の売上でいうと、日本の上場企業約4000社の中で1190位くらいの水準である。なに?「ビガー・バン・ツアー」は2年間に及んだからその半分になるはずだって。結構、半分の279億円だとしても、1780位に位置する。それでも全上場企業の上位50%に入っているではないか。しかも、これはツアーからの収入だけで、その他にもCDの印税やらロイヤリティなどの収入もあるのだ。(これについてはあとで改めて触れる)
 ストーンズに近い期間繁栄しつづけている企業として、例えば、日本が世界に誇る自動車メーカーの本田技研工業(ホンダ)が挙げられる。ホンダの創業は1948年だが、四輪事業を開始したのは丁度ストーンズの創業、いやバンドとしてのデビューと同じく1963年である。
 もちろんホンダの2012年の売上高は単独で7兆9480億円と桁違いだが、ホンダは18万7000人の従業員を抱える大企業である。一方、ストーンズは正社員5人、あとは長期契約社員が35名程度、それからツアー時には期間社員として350人程度を雇うという超コンパクトな経営をしているのだ。
 ちなみにアップル社の創業は1974年、マイクロソフト社は1975年だ。創業40年足らずの両社はストーンズに比べればまだまだ駆け出しのベンチャー企業のようなものだ。
 どうだろう、これでストーンズの事業者としての凄さが分かって頂けただろうか?

㈱ローリング・ストーンズのビジネス戦略


そもそも読者の皆さんは、ザ・ローリング・ストーンズという英国のロック・バンドをご存じだっただろうか? 40歳以上の人にしてみれば「もちろん知っている」だろうし、ファンも少なからずいるだろう?そもそもこの本を手にとってくれたのだから知っているだけではなくファンだった、あるいは昔ファンだったという読者も多いのかもしれない。
しかし、20代、30代の中には知らない人、名前だけは聞いたことのある程度の人が多いようだ。
この前、広告代理店に勤める20代半ばの女性がストーンズのロゴであるベロマークのTシャツを着ているのを見かけた。色あせたピンク地に紫のベロマークがおしゃれだったので「ストーンズ好きなの?」と聞いてみると、「ストーンズ?知らないです。でもこのベロかわいいから色違いを3着も買っちゃったんです」とのこと。
最近、このベロマークのついたTシャツを着た若者をよく見かける。彼らの中にこのベロマークが、1971年、ストーンズがデッカという大手のレコード会社との不公平契約の呪縛を離れるために自分たちの「ザ・ローリング・ストーンズ・レーベル」を発足させたのを記念してデザインされたものだと知っている人はほとんどいないのだろう。ボーカルのミック・ジャガーの分厚い唇をイメージしているのだが、若者の中ではストーンズのロゴだと知っている人すら少ないようだ。
しかし、最近ではキムタクこと木村拓哉さんが主演するTVドラマの主題歌になった「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を聞いて、「何この曲、めちゃカッコいいじゃん」と、ストーンズのファンになった若者も多いらしい。
そう言えば2012年にサントリーから「ストーンズ・バー」という、このロゴマークをデザインしたアルコール度数が控えめの発泡酒が発売された。当時はかなりのプロモーションを行っていたので、酒屋やスーパーで見かけた人も多いだろう。残念ながらこの商品はすでに販売終了となっているが、サントリーはこの契約にこぎつけるまで5年間、リーダーのミック・ジャガーと交渉を続け、かなり高額な契約金を払ったらしい。こんなところからも、日本の企業の中枢に強烈なストーンズ・ファンが隠れていることが垣間見られる。そういえばサントリーはストーンズの初来日公演のメインスポンサーだった。
私のようなコアなストーンズ・ファンは、来日時のチケットが普通のロックコンサートよりも高めでも喜んで払ってしまうものだ(ロンドンでの50周年コンサートでは、通常の相場の2倍以上の価格にも関わらず65000枚のチケットが3分で売り切れた)。そして毎年のように新しいDVDを買ってしまう。例えば10年前には高額でなかなか手に入らなかった海賊版が正規にリリースされたりして(しかも小出しに)、可処分所得が増えた我々中年世代はつい買ってしまうのだ。いいカモになっている訳だ。
ビジネスパーソンであれば、ここまで読んで頂いて、この背景に念密に練られたビジネス・モデルの匂いを感じることだろう。
そう、ストーンズは特に80年以降、時代の流れに合わせて実に巧みにそして丁寧にそのビジネス戦略を練ってきたのだ。

㈱ローリング・ストーンズのビジネス・ポートフォリオ


フォーチュン誌がストーンズの1989年から2001年までの13年間における収入についての興味深い試算を行った。その内容は次の通り。

ロイヤリティ(広告など):  5600万ドル(56億円)
CDアルバムセールス:  4億6640万ドル(466億4000万円)
チケットセールス:    8億6530万ドル(865億3000万円)
キャラクター商品:    1億3590万ドル(135億9000万円)
スポンサーシップ:      2150万ドル(21億5000万円)
総額:         15億4510万ドル(1545億1000万円)

このデータを見ると、コンサートチケットの売り上げが㈱ストーンズの収入の50%を超え、最も大きく貢献しているのが分かる。意外にもアルバムセールスはその半分くらいの貢献度である。
ミック・ジャガーは、1997年以降、この傾向はさらに強まると予測していた。彼によると、1970~1997年の間はアルバムセールスによってアーティストが稼げる限られた幸せな期間だったらしい。それ以前はレコード会社にぼったくられてアーティストには金が回ってこなかったし、それ以降ではインターネットの普及によって印税は限られてしまうというのだ。
そのせいか、今世紀に入ってストーンズますます精力的にコンサートツアーを行っている。2005年のコンサートツアー興行収入額では見事に世界のトップに輝いた。全42公演の全米ツアーで1億6200ドル(162億円)を稼ぎだしたのだ。(信じられるだろうか?彼らは当時すでに60代の中高年だったのだ)
そして、ストーンズは広告収入にも手を抜かない。マイクロソフト社のウィンドウズ95のテーマ曲として「スタート・ミー・アップ」を使わせて欲しいとビル・ゲイツがミック・ジャガーに直接電話で依頼した時、ミックは言い値で4百万ドル(4億円)の契約を取りつけたというのは有名な話だが、アメリカの広告協会によると2006年から2012年の6年間で広告ロイヤリティ―の収入は1億6735万ドル(167億3500万円)に上ったらしい。
さらに、税金が嫌いなことで知られるストーンズだが、1972年に英国の金融機関は信用できないとして、税率の低いオランダの会計事務所に印税の管理を移管して以来、彼らの払っている税金は収益のわずか1.6%なのである。
なんとも恐ろしいバンド、いや事業主である。。。

ミック・ジャガーのリーダーシップ


ローリング・ストーンズというバンド名はブルースの巨人、マディ・ウォーターズの曲名から取ったものだが、もともとは「A rolling stone gathers no moss.」というイギリスのことわざから来ている。その意味は、職業や住みかを変えてばかりいる人は、地位も財産もできないという意味だが、活動を続けていれば常に時代についていけるという意味もある。日本語訳の「転石(てんせき)苔(こけ)を生ぜず」では前者の意味に近く、転がってばかりいるときれいな苔がつかないよ、という意味で使われることが多い。しかし、ストーンズは50年間転がり続けて、時代を常に捉え、しっかりと名声と共にゼニという苔を身にまとった、という訳だ。

 このストーンズのビジネス・モデル、どうやらリーダー的な存在であるボーカルのミック・ジャガーがカギを握っているらしい。ロンドン経済大学(日本で言うと一橋大学のような学校だと聞いたことがある)を中退したミックだが、彼がリーダーシップを取り、ストーンズという1ブルース・バンドをマンモスビジネスに成長させてきたのだ。
 ストーンズのこれまでの50年間を振り返ってみると、その歴史は決して順風満帆ではなかった。
 1963年のデビュー以来10年くらいはマネジャーにピンはねされ、いくら稼いでもそれに見合った給料をもらえなかったし、69年には主要メンバーのブライアン・ジョーンズが急死した(その背景にはドラッグにまみれた生活があった)。また同じ69年には主催した無料コンサートでステージ前での殺人に加え事故死も含めて計4人の死者を出し、ストーンズに対してその責任を追及する動きもあった(これはオルタモントの悲劇として60年代のロック史の汚点として語り継がれている)。70年代半ばには2人目のギタリストミック・テイラーが急遽脱退を決めた。67年に逮捕されて以来ドラッグのトラブルが続いていたギタリスト、キース・リチャ―ズは77年には本当に禁固刑を受けそうになる。(ギリギリのところで奇跡的に中毒の治療の為に釈放された)。80年代にはキースとミックとの間で確執が拡がった。そしてミックが新境地を求めてチャレンジしたソロアルバムの成功、そして失敗。2006年にはキースがヤシの木から落ちて脳の手術をする羽目になり、さらにドラムのチャーリー・ワッツは喉頭がんの宣告を受けた。(どちらも完治し2人とも元気にツアーを行っている)
 普通の企業を50年もの間経営すれば多くの問題が次から次へと現われるものだが、ストーンズについても例外ではなかった。
 そんな中でも何とかやり過ごし、生き残るだけではなく世界の頂点まで上り詰めるためのモチベーションを維持したという偉業は、ミック・ジャガーのポジティブなリーダーシップなしではあり得なかったことだろう。一見、その時の気分次第で行動をしてきたように見える彼らだが、その背景にはミックの古典的なリーダーシップが垣間見られるのだ。
本書では、そのミック・ジャガーのリーダーシップについてひも解いてみたいと思う。
考えて見れば、2013年7月に70歳になったミックは、ステージで飛び跳ねるには高齢だが、企業のCEO(最高経営責任者)としては決して異例の年頃ではない。
多くの才能あるアーティストが次々に現われては消えて行くショ―ビジネスの中で、どうしてストーンズは解散せずに生き残り、稼ぎ続けることができたのか、そこには他のバンドでは見られないミック・ジャガーならではのリーダーシップがあったからだ。そこを解明し、そこから組織を持続的に繁栄させ続けるリーダーシップのあり方、秘訣について読者と共に学んでいきたいと思う。

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