ユーダイモニア マネジメント


ポジティブ心理学の実践家としてのピーター・ドラッカー

執筆者:小屋一雄
 今、大手書店の多くにはP・ドラッカーのコーナーがあり、ドラッカー関連の本が平積みにされている。現代経営学の父、20世紀で最も偉大な経営コンサルタント兼思想家、などと多くの著名な経営者や経営学者の賞賛を浴びてきたドラッカーだが、未だにその影響力は弱まることがないようだ。

 これは、2009年にドラッカーの生誕100年を迎えたこと、あるいは「もしドラ」こと「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を 読んだら(ダイヤモンド社刊)」が電子版と合わせて200万部を超える大ヒットとなったことなど単なるマーケティング活動の成功によるものだ、などと斜に構えるべきではないだろう。確かに「もしドラ」の大ヒットは日本の出版業界及びビジネスパーソンの現状の賜物ではあるが、テーマはなんでも良かった訳ではなく、やはりドラッカーだったからこその成功であったと言えるだろう。

 ドラッカーの魅力は、ジャック・ウェルチのGEを含む多くのビッグビジネスに対するコンサルティング経験などから引き出される豊富な知見、エピソードに加え、その著作に見られる広い視野・知識、企業データに対する論理的な視点、そして人と組織に対する深い洞察など挙げればキリがない。この魅力を一言で言うと、「彼の残した言葉の多くには時代を超える普遍的な示唆が含まれている」ということではないだろうか。インターネットがビジネス社会を変えた、と良く言われるが、60年代に書かれたドラッカーの書籍を読むと「とは言っても基本は変わっていない」と感じずにはいられない。特に人と組織についての見解にはそれが強く感じられる。

 ドラッカーが残した多くの含蓄ある言葉の中でも、私は特に「貢献」についての記述にドラッカーの卓越した先見性を感じている。

 ドラッカーは「経営者の条件」の中で、「組織の成果に影響を与える貢献は何かを自分に問うこと」を重要視している。以下、ドラッカーの「貢献」についての考えを紹介する。

 多くの企業人は自己紹介の時に自分のことを経理部長だとか、部下が何百人いますとか、あるいは自分の努力について説明しようとする。しかし、組織で働く者にとって重要なのは、組織の成果についてどのように貢献しているか、である。ここで言う成果とは、「直接の成果」「価値への取り組み」「人材の育成」のことである。ドラッカーは企業人はだれしもこれらの成果に対する貢献に照準を合わせるべきだと提言している。

 貢献に照準を合わせることは共に働く人の視点や水準を高めることにもなる。一方、貢献に焦点を当てることなくしては、やがて自分をごまかし、組織を壊し、同僚達を欺くことにもつながる。つまり、誰もが「自分にできて人にできないことで、もし本当にうまくやれば会社を大きく変えるものは何か?」と自問するべきなのである。

 さらに貢献に焦点を合わせることによって、よい人間関係を築くことにもなる。ドラッカーは、対人関係の能力を持つことだけでよい人間関係を生むことはできないと断言している(これは対人コミュニケーションのスキルで完結してしまうような研修を行っているコンサルタントにとっては耳が痛いことだろう)。仕事上の成果がそこになければ、いくら温かな会話や感情も職場では無意味なのである。

 ドラッカーは、貢献に焦点をあてることによって、組織が成果を上げるうえで必要な4つの基本的な能力を身につけることができると書いている。その4つの能力とは、次の通りである。
1) コミュニケーション
2) チームワーク
3) 自己開発
4) 人材育成

コミュニケーション
 まず、職場で成果に向けたコミュニケーションを持つために、上司は部下に対して例えば次のような質問をするべきである。
「組織、および上司である私は、あなたに対しどのような貢献の責任を期待すべきか?」
「あなたに期待すべきことは何か?」
「あなたの知識や能力を最もよく活用できる道は何か?」
 部下が設定する目標は、ほとんど常に上司が考えているものとは違うものであり、まず貢献する対象である目標について共有するべきなのである。

チームワーク
 次に、果たすべき貢献を考えることによって、横へのコミュニケーションが可能となり、その結果チームワークが可能となる。さらに状況の論理や仕事の要求に従って、自発的に協力して働くようになる。

自己開発・人材育成
 その結果、自分自身が成長することになる。人は自らが自らに課す要求に応じて成長するものなのだ。さらに、貢献に焦点を合わせることは個人的な基準ではなく、仕事のニーズに根ざした基準を設定することになるので、周りの人の自己開発をも触発することになる。

 これが1964年に書かれたということは、驚くべきことだと思う。

 病んだ心理の分析よりも卓越した心理のメカニズムにスポットライトを当てるポジティブ心理学がセリグマン博士によって確立されたのは1990年代である。同時期にポジティブ心理学をベースにした理論を莫大なサンプルのデータ統計で証明し、ビジネス・コンサルティングに発展させたギャラップ社が「エンゲージメント理論」を確立させた。「エンゲージメント」とは、企業の指標には表われにくい会社・職場と従業員の間にある感情的な結びつきのことで、ギャラップ社は300万人に及ぶ従業員とその組織のパフォーマンスとの相関を統計処理し、その結果組織のパフォーマンスに最も強い相関を示すのはこの「エンゲージメント」であると発表した。

 それ以降、組織開発、人材育成の世界ではこの「エンゲージメント」という言葉が「社員満足」などに替わって取り沙汰されるようになった。その「エンゲージメント」の内容を吟味すると、結局職場において最も大切なのは「各人が自分が組織に何を期待されているかを明らかにし、それを共有し」「自分が組織のために貢献しているという実感を持ち」「職場の仲間とのあいだでチームワークを築いていると実感し」そして「さらに自分自身がその職場で成長していると感じる」ということになる。

 これはまさにドラッカーが60年代の著作の中で力説していたことであり、実践家達はある意味30年の歳月を経たのちドラッカーの理論を統計的に証明したとも言える。

 心理学は長年、心の病んだ部分、暗い部分の分析に焦点を当ててきたわけだが、その間も経営という実際の成果を出さなければ始まらない現場では、当然分析よりも成果につながる卓越性が注目されていた。そんな中、ドラッカーは90年代のポジティブ心理学の確立を待たずしてポジティブ心理学的な理論をビジネス現場で実践していたのである。
そう考えると、ようやく卓越性について前向きに取り組み始めた心理学(ポジティブ心理学)と経営理論との相互作用によって、これからは今までの枠に縛られない人それぞれの強みを活かし、その貢献を引き出すビジネス現場、ビジネス社会が生まれるのではないかと期待される。

生誕100年を超えた過ぎた今、ドラッカーが日本でも熱狂的に読まれている、という背景には多くのビジネスパーソンがそんなビジネス社会を切望しているということかもしれない。

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